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ANACHRONISM(時代錯誤)+ROVER(海賊)=ANACHROVER

大きく小さく、幾重にも弧を描いてタムとクラッシュを行き来するスティックが
突然に宙で息絶える。
ピエロのパレードを想起させるリズムで浮遊するギター。
気ままに観客の心臓をノックするベース。
段差のまちまちな階段を慌ただしく昇り降りするように流れるサックス。
パーカッション。キーボード。カウベル。ボーカル。
ドラマーの号令を受けて全てが瞬く間に存在を隠す。

行き場を失ったメロディーはその余韻ですら急いで空気に溶けて、
観客のざわめきさえ連れ去られ、
何も無くなって、
暗闇に陥って、
無になって、
1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つと少し……

ステージ上の全ての楽器が再び弾けて地層が粉々に砕かれそうな衝撃を受ける。
公式の無い掛け算で広がってゆくソウル。
さっきよりもテンポを速めて絡み合い、予測できないところに予測できない音が落ち合う。

(さすがROCK VILLAGE FESの切符を獲得しただけあるな、こいつら。天才なんて生易しいもんじゃねぇぞ)
俺はハイネケンの空瓶を握りしめたまま、ステージで巧みに音を操るバンド、F.C.Bを見ている。
ブレイクの隔たりまでをも音の無い音として響かせる彼ら、F.C.Bは地中海に浮かぶ小さな島国から来たという。

淡いブルーのステージライトと朝陽の透き通ったミルクイエローが混じり合って、こちらを照らす。
ハリーに肩を強く叩かれるまで、俺は自分の所在ですら忘却するほど音の世界に酔いしれていた。
「どうだ、スゴイだろ。ここに来る度、生きてて良かったって思うんだよ俺様は」
ハリーは昨日の夜からウィスキーを飲み続けて既にベロベロだ。
俺をこのFESに連れてきてくれたハリーは、ジャングルで世話になっているベイジルの義弟。
海を越えて、国境を越えて、ここに来るまでに何日を費やしたか分からない。
「ROCK VILLAGE FESTIVALは世界各国のトップミュージシャンが集う地球最高級のFESなんだ。このFESに出場するため各国の天才ROCKERは奮闘する。ROCK界のオリンピックみたいなもんだ。お前も一度は行っておかないとROCKを知らずに死ぬことになるぞ」ベイジルはそんなことを言っていた。
確かに、これがROCKならば俺は今までROCKを知らなかった。

このROCK VILLAGEという村には280ものステージが点在する。
村というよりも一つの国みたいなもんだ。
俺は詳しく知らないが、FESの主催チームが発行する特別な許可証が無ければ村の中に入れないらしい。
毎年この季節になると二十日間開かれるこのFESでは、280全てのステージで様々なグループが夜通し自分たちのROCKを披露する。
出場経験があるというだけで自国に帰れば政府や国王から賞賛される。それだけ名高いチケットだとベイジルに聞かされた。

F.C.BのボーカルがMCに入ったところで、俺は村の中を徘徊することにした。

エメラルドグリーンの湖に浮かぶ楕円形のステージから聴こえるのは、ボンゴやコンガやカホンを利かせた能天気でゆるいリズム。

右向こうの高台に位置するステージはちょっと異様な光景だ。
二台のドラムセットが向かい合わせに居座って、左は男、右は女がスティックを振る。それ以外にはどんな楽器も見当たらない。
二人は別々のグルーブを生み出しながらも、二つが交わることで初めて一つの音楽になる。

目を閉じると、海の青さや砂漠の乾き、ジャングルの騒々しさが見えてくる。

そこから100mほど離れた広大な芝生に建てられたステージでは、黒々しいタキシードで決め込んだ連中が腕や胴体をくねくねと捻って踊りながら同時に楽器を操る。
ブルース調の露骨なリズムと奇妙なダンスがクールに整う。

緩やかなカーブを描く川沿いの二階建てのステージでは、まだ十代に思しき奴らが弦を弾く。喉を鳴らす。鍵盤をなぞる。太鼓を震わす。
俺がこれまでに耳にしたことのない拍子をメロディーラインにぶち込んでくる。

(やれやれ…どいつもこいつも、そのイカレたテクはどこで得たんだよ)
圧倒されっぱなしの俺は大きな溜め息を一つついて、中毒のように音とリズムを欲してしまう自分の今にまた圧倒される。

ミルクイエローに輝いていた太陽は次第に彩度を増して朝を越す。
鉄製のオモチャみたいな橋を渡って向こう岸のステージを望んだその瞬間、俺は自分の目を疑った。
大小二つのピラミッドをくっつけて逆さにしたようなステージの上。
真っ赤なモッズコートを着てエレキベースを抱えるアイツ。
(どうしてペティがここに居るんだ?)
どういうことか、海賊生活を共にしたかつての仲間、ペティがそこに立ってベースを弾いている。

(おいおい、本当にペティじゃないか…)

俺は急いで駆け寄る。
あいつの笑顔が脳裏に蘇る。
あいつと交わした言葉がコロコロと落ちてくる。
急いで駆け寄る。
あいつを目指して突っ走る。
海の匂いを受けながら…
果てしない波の輝きを想いながら…

「よぉ、久しぶりじゃん!」
以前と変わらないペティの声がROCK VILLAGEに響き渡る。