ANACHROVER Officall WebSite. アナクローバー, アパレル,メンズ,ファッション,トレンド,tokyo,東京/anachrover.com

ANACHRONISM(時代錯誤)+ROVER(海賊)=ANACHROVER

見渡す限りの岩石砂漠。
国境だとは思えない静けさの中、小鳥のさえずりが大地に反響しながら美しいメロディーを奏でる。

果てしなく長い国境門の反対側で番をする彼は、パートナーのヴィオーレ。
とはいえ彼には自分が兵士だという自覚が全く無い。毎日飽きることなく、
あんな風に胡座をかいて難しそうな本を読んでばかりいる。
「エウロパに知的生命体が存在する確率」とか…
「ブラックホールが地球を貫通したら」とか……
彼は一体、何になりたいのであろう。
実質俺が一人で番をしているにも関わらず、ヴィオーレは格好だけは一丁前で、
俺よりも“らしく”見えるから腹が立つ。
長身で細身の彼は、土臭い軍用ジャケットと色褪せた迷彩柄のパンツがよく似合う。

それにしても今日は、薄雲一つない気持ちの良い空だ。

俺にこの仕事を紹介してくれたサミュエルは、今頃、
相も変わらず陽気に葉巻をプカプカやっているだろうか……
彼からは三ヶ月間だけだと聞いていたが、ここで番人を始めてからもう半年になる。
まぁそれなりに刺激があって、悪くはない仕事だ。

そんな事を想いながら半年前まで毎晩のように連んだ仲間のことを懐かしんでいると、
なんとも面倒臭そうな情景が目に入った。
三百メートルほど向こうを低姿勢で過ぎ去ろうとする男女とチビ2人。
まさか…黙ってここを通り過ぎるつもりなのか?
それにしても、こんなに堂々と密入境を試みる奴は見た事がない。
近寄る俺に気が付いた四人は悲壮感をたっぷり漂わせ、直ぐさま逃げることをやめた。
どうやら彼らは家族らしい。
聞き覚えの無い言語で母親が必死に訴えかけてくるが、話の内容がいまいち掴めない。
安物ワインを三本も抱え、震える手足を押さえきれずに座りこむ父親。
幼い弟の手をぎゅっと強く握りしめ、俺を見つめる十歳前後の女の子。
骨のシルエットが出る程に痩せ細り、涙ながらに俺を説得し続ける母親。
十五分ほど話を聞き続け、ぼんやりとだが、理解した。
彼らは何かに追われている。
母親が布の端切れを継ぎ合わせて作ったのであろうTシャツの裾を噛み締める坊主の瞳を見ていると、 俺は門番らしからぬ事に手を出さざるを得ない気持ちになった。
俺は、兵士には向いていないのかもしれない。

四人をそこで待たせ、俺はフローリンの居るイミグレーションに向かった。
フローリンはこの地で最も信頼のおける兄貴的存在、良き理解者だ。
兵隊時代に作り上げたそのゴツゴツとした体格が、警官の中でも群を抜いて目立っている。
鼻先までをもしっかりと覆った空軍用の防寒ジャケットを着用し、
黒人カップルのくだらない質問に仕方なく応対しているフローリンを呼び寄せ、
四人のことを説明した。
「外貨申告所のリリアは法律にしか従えないお固い女なんだ。
彼女にだけはバレないように上手くやろう」
そう言ってフローリンは四人の居場所を確かめた。
彼は気持ちが良いほどに理解が速い。
今日は入境者が少ないためかリリアも退屈らしく、
ウール素材の洒落たショール付きテーラードジャケットをアシスタントの若者に
熱心に自慢している。
今がチャンスだ。
丈の長いレザーコートに身を纏うハビエルは、
さっきから観光客女性を捕まえていちゃいちゃしている。
警察官だとは思えない行為に呆れるが、今はそれが有り難い。
ご存知の通りヴィオーレは論外。

フローリンの協力のもと、四人を通すまでは意外に速かった。

一部始終を見ていたバスの運転手のヴィーゼが、ダウンベストのポケットから出した手を俺に向け、
よくやったと表現して見せた。
俺も合図で返し、定位置に戻ろうとしたその時、
シャツを二枚も重ね着をした映画俳優張りに格好の良い白人が、突然俺の腕を強く掴み、
慣れない英語でこう言った。「Please・・・pass me・・・」

おいおい、またか・・・

今日は何だか厄介な一日になりそうだ。